大日本帝国の轍 第5章〜第7章 日本の運命を変える爆音、南満州鉄道線路の爆破。しかし、線路は爆破されていなかった。日本は暗黒の彼方へと引きずり込まれていく。

世界から孤立した道を歩み始めた日本

第1次世界大戦が終了すると、世界的に余剰在庫が発生して世界全体がデフレーションの波に飲み込まれていった。昭和の金融恐慌で大企業の倒産が相次ぐという不況の最中、1929年(昭和4)10月24日にはニューヨークの株式が大暴落、世界は大恐慌へと突入した。

各国の通貨安競争と列強諸国のブロック経済化で日本はますます孤立していった。

東北地方の農村では青田買いや娘の身売りが横行し、その貧困さは目を覆いたくなるほどだ。やがて生活の糧を求めて本土から満州の地へ人々が続々と流出した。そこに大陸浪人なる支那通が現れ、軍部の手先となって満州は侵略の格好の舞台となるのである。

満州は王道楽土と喧伝し、国の政策が自然と満州へ向いてくると、そんな中、満州事変の前哨戦となる事件が相次いだ。中村大尉殺害事件や万宝山事件がそれだ。 吉田昇平は大連支局の岩谷悦史と共に万宝山事件の現場へと急行するが、そこで見たものとは・・・。

張作霖爆殺事件では、奉天軍が挑発に乗らなかった為、陸軍の野望は一時的に頓挫した。しかし、3年の間、今度こそ!との思いで、陸軍は国民感情を味方に引き入れようと数々の裏工作を展開、反中国感情を煽ることに努めた。

そして、1931年(昭和6)9月18日午後10時半、日本の運命を変える爆音が聞こえた。南満州鉄道・柳条湖付近で線路が爆破されたというのである。それを奉天軍の仕業とした関東軍は間髪入れずに満州全土の制圧に乗り出したが・・・。しかし、現場を検証してみると線路は爆破されていなかった。この爆発と称されるものによって、日本は暗黒の彼方へと引きずり込まれてしまう。

世界列強の目が満州へ向く中、軍部はその目を反らせようと上海を舞台に事件を画策した。抗日組織が日蓮宗の僧侶を襲ったことから日中の過激派が激突、その余波は上海全土にまで拡大。第1次上海事変の勃発であった。しかし、その裏には思わぬ仕掛け人がいた。愛と謀略の渦に巻き込まれた1人の女性、その人は清王朝の血筋を引く王女だった。

記者生活最後の仕事として上海での攻防戦を取材した大連支局に勤務する昇平の恩師でもある岩谷は、自身の送別会の席上思わぬ人と遭遇してしまう。満州の仕掛け人こと、甘粕正彦と男装の麗人といわれた川島芳子であった。そこで交わされた会話とは・・・。

この頃から岩谷の脳裏には、日本の対中政策に疑問が浮かび、軍部が日本の主導権を握るのではないか、という不安が脳裏を掠めていた。案の定、国際連盟から派遣されたリットン調査団の報告書は満州国を承認せず、それを不服とした日本の首脳部は国際連盟からの脱退を決意。世界の趨勢から孤立した道を歩み始めることになる。

  • 1931年(昭和6年)7月4日 東京朝日新聞 万宝山事件を伝える報道記事
  • 1931年(昭和6年)9月12日 東京朝日新聞 中村中尉事件を伝える報道記事
  • 万宝山事件の現場に建つ石碑
  • 柳条湖事件の現場地図。1930年頃の想像図
  • 柳条湖事件の現場跡地に建つ9・18記念碑(中国では柳条湖事件を9・18事件と呼ぶ)
  • 柳条湖事件の発生現場付近の鉄道。満州事変のきっかけとなった南満州鉄道爆破地点
  • 1933年(昭和8年)3月28日 東京朝日新聞 夕刊 日本の国際連盟脱退を報じる記事
  • 1932年(昭和7年)1月19日 東京朝日新聞 第一次上海事変のきっかけとなった日蓮宗僧侶が襲われた記事
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